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夜が更け、自宅のリビングルームにひとり佇む。最新作の映画がテレビ画面に点灯しているが、俺はその内容に集中することなく、考えごとにふけっていた。上着を身に纏ったまま、ソファに腰を下ろし、窓の外を見つめる。無数の街灯が夜の闇を照らし、微かに聞こえる車の音が静寂を破るのみだ。この場所は俺にとって、一時の安らぎを与えてくれる唯一の空間だ。だが今夜は、何かが俺を心の中でざわつかせていた。

童貞、という言葉が俺の頭の中を巡る。高校時代から知っている、この不思議な状態が、今でも俺の存在を包み込んでいる。友人たちは皆、逸早くその「呪縛」から解放された。青春の日々、彼らの話の中心にはいつも、恋愛や冒険があった。しかし俺は、そんな風には振る舞えなかった。

その理由の一つは、俺の上着にあるのかもしれない。上着は俺にとって、単なる防寒具やファッションアイテムではない。繊維に沁み込んだ家族の思い出や、自分を守るための鎧としての役割も持つ。初めてこの上着を手にしたのは中学の卒業式の日だった。母が「これからの道を歩むための守護者」として贈ってくれたものだった。それ以来、俺はその上着と共に歩んできた。

俺の自宅は、静かで落ち着いた場所だ。しかし、ここにも時間が流れ、変化が訪れる。今日は特に、その変化が俺を強く揺さぶる。婚約中の彼女がいる友人からの招待状が郵便受けに届き、彼らの幸せな未来を祝福する気持ちと同時に、俺自身の未来に対する不安も湧き上がる。最新作の映画に出てくる主人公たちも、恋に悩み、挑戦し、成長していく。彼らの決断が俺に何かを促すように感じる。

俺は上着のポケットから取り出した煙草に火をつける。一巻きの煙が俺の周りに漂い、思考をさらに深めていく。高校の頃、初めて恋をした相手がいた。しかし、その恋は淡い憧れのまま終わりを迎えた。その理由も、上着との付き合い方にあるのかもしれない。守られることに慣れすぎて、行動を起こせなかったのだ。成長すればするほど、この上着が重く感じられるようになってきた。

上着を脱ぎ捨てることができれば、新たな一歩を踏み出せるかもしれない。だが、それは容易なことではない。この上着に込められた思い出や、安心感は俺にとってかけがえのないものだからだ。しかし、もし上着を脱ぎ去り、新しい自分を見つけることができれば、童貞という名の呪縛から解放される日も来るのだろうか。

俺は立ち上がり、窓を開け放つ。冷たい風が部屋に流れ込み、俺の頬を冷やす。無数の星が夜空に輝いている。自然の大きさに比べれば、俺の悩みなど取るに足りないものかもしれない。

上着を脱いで、新しいシャツを身に纏い、鏡の前に立つ。ここから始まる新しい自分が、どのような歩みをしていくのか、まだわからない。しかし、大切なのは一歩を踏み出すことだ。最新作の映画の中の主人公たちのように、俺もまた、自分の道を切り拓く勇気を持たなければならない。

気持ちを整理し、もう一度上着を手に取る。あの頃とは違う、少しずつでも成長を感じる自分を見つける。上着を心の奥にしまい、新しい一日を迎えることを決意した。この一歩が、童貞という束縛から解放され、真の意味で自分の人生を歩むための始まりであることを信じて。